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自作小説の一文を書いたり書かなかったり書きっぱなしで放置したりとりあえず軽く文章書き殴る場所、即ち自己満足空間
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春風吹き込む丘の上。街の全貌が見渡せる場所に私はいる。私はすでに20年間ほどじっとこの丘の上に佇んでいる。

私が土の中から顔を出した時は平たんな町並みも20年経った今では高い建物がそびえ建ち、丘の近くには学校も出来た。しかし20年もずっと同じ場所で街を見渡しているとなかなか変化に気づかないもので、実際には多きな変化でも、思い返せば変わったなという感じだ。

そんな私の最近の楽しみは近くの学校からやってくる少女だ。少女はいつも夕方近くにやってきて私の元にきては町並みを見渡せる場所に座り込み、絵本を広げ、朗読を始める。

私は少女が読み上げる話に聞き入った。時には王子様がお姫様を救う話、時には人形が踊りだし人を幸せにする話、時には人魚が人間に恋をする話、時には竜と戦う勇敢な少年の話。少女は来るたびに違う話を持ってきた。

いつの日からか私は少女が来のを待ち遠しいと思うようになっていた。雨で来ない日などはとても悲しく、また、雨に対して怒りもした。

夕方近くに来るとやってきて絵本を読み帰っていく。そんな日々の終わりは突然来た。ある日を境に少女は全く来なくなってしまった。

少女が来なくなってから私はとてつもない喪失感に襲われた。それと同時に必死に街を見下ろし少女の姿を探した。しかし見慣れた街でも高い建物が多くなり見にくくなっていて見つけることはできなかった。

一体何があったのだろうか。どこか遠い所に行ってしまったのだろうか。事故や事件に巻き込まれたのではないだろうか。それともこない内にここのことを忘れてしまったのではないだろうか。そんな思いが私の心を支配しつづけていた。

しかしそんな心配をよそに時は無情に流れていく。少女が来なくなっても私はずっとこの丘から離れない。何年も何年も、私はここに居続けるだろう。

少女がここに来なくなってから何年か経ち、街並はまた変わり、更に建物が増えた。最近ではもう昔の姿を思い出すのが困難なほどになっていた。

町並みが変わっていくと私は変わり行くことに不安を感じていた。変わるということは時が流れるということ。いずれ私は誰からも存在を忘れられるのではないだろうか。そのような思いに捕われるようになった。

不安を抱えつつも時は流れる。とある晴れた昼下がり、子供達が大勢ここへやってきた。その中にいた一人だけいる大人の女性が子供達を私の周りに集まるように言い、少女がいつも座っていた場所に座り込んだ。

彼女は一冊の絵本を取り出すと読み始めた。そして私は理解した。彼女はいつかここに来ていた少女なのだと。

理解すると同時に私は彼女がここを忘れたのではないと知って嬉しくなった。そして生きていてくれたことを感謝した。

彼女は姿こそ変わったが、しかし何もかもが変わったわけでは無かった。

夕方になると彼女達は帰っていった。きっとまた明日も来るだろう。それでもいつかわ来なくなる。時の流れとは変化だ。

しかし少女が変わらなかったようにきっと変わらないものもある。だから私はずっと変わらずにここにいよう。そして私が見ている世界の変化を見届けよう。

少女の変わらぬ声を心にやどしながら。





夜も更けた静かな時間。普段は誰も来ない時間に彼女がやってきた。その両腕に大きい荷物を抱えて。

荷物は長細い袋で何が入っているか分からないが、彼女より大きい物だというのは分かる。

彼女は荷物を側に置くと丘を降り、スコップを持って戻ってきた。持ってきたスコップで私の元を掘り始めた。

穴が荷物と同じくらいの大きさになると彼女は荷物を穴の中にいれて埋めた。作業が完了すると彼女は丘を降りて帰っていく。

何週間に一度の周期で彼女は夜中にやってくる。そして穴を掘っては荷物を埋めていく。

彼女はいつも埋める前に荷物にくちづけすると呟く

「愛してるわ」

と。
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